決算書が読めても、未来は見えない?
会社を経営するなら、「決算書くらい読めなければいけない」とよく言われます。たしかに、損益計算書(PL)や貸借対照表(BS)には、会社のもうけやお金の動きが書かれています。でも、実はこの決算書には、大きな欠点があるのです。
それは、すべてが「過去の話」だということ。
決算書は、すでに終わった月や年の「成績表」のようなものです。たとえるなら、テストの点数だけを見て、次にどう勉強すればいいかを考えずにいるようなものです。数字を振り返るだけでは、「これからどうすればもっと儲かるか?」という答えは出てきません。
未来をつくるには、「今、どこにお金をかけるべきか?」「どの商品を伸ばすべきか?」といった意思決定が必要です。そのときに役立つのが、「管理会計(かんりかいけい)」です。
管理会計は、「経営の判断材料になる数字の見方」のこと。未来に向けた行動を選ぶための、もう一つの“経営の道しるべ”です。
- 「売上が伸びているのに、なぜか利益が出ない」
- 「設備投資をしたけれど、本当に正しい判断だったのだろうか」
- 「部下から『どうすれば利益が上がりますか?』と聞かれたとき、明確に答えられない」
このような悩みを抱えているあなたは、決して珍しい存在ではありません。多くの経営者や管理職が、「数字」と「経営判断」の間に高い壁を感じています。
「科学的どんぶり勘定」という新しいアプローチ
とはいえ、「会計」と聞くだけで難しく感じる人も多いと思います。そこで本連載では、「科学的どんぶり勘定」という、まったく新しいアプローチで説明していきます。
「どんぶり勘定」とは、ざっくりと感覚的にお金の流れをつかむ方法。これを科学的に、つまり根拠のある図やしくみで視覚的に整理すれば、実はとても使える経営の武器になるのです。
本連載では、利益のしくみやコストの流れ、意思決定のポイントを図やイラストを使ってやさしく解説しています。数字が苦手な人でも、感覚的に「なるほど」と思えるようにデザインしました。
決算書の読み方がわかり、儲けのカラクリが見えてくる。さらに、「次にどうすればいいか」が自分の頭で考えられるようになる。そんな管理会計の力を、図でわかるかたちで、みなさんと一緒に身につけていきましょう。
なぜ経営者は会計を避けるのか?
経営には、教科書では教えられない「感覚」の部分があります。価格をどう設定するか、いつ設備投資を行うか、人員をどのタイミングで増やすか——これらの判断には、単なる知識を超えた「経営者としての直感」が必要です。
しかし、多くのビジネススクールや研修では、この「感覚」を身につける機会が十分に提供されていません。理論は学べても、実際に自分の判断で会社を動かし、その結果を肌で感じる体験は得られないのです。
「会計の勉強会があるから、一緒に行きませんか?」
そう声をかけても、経営者やリーダーの中には、「それは経理の人に任せてあるから」「私は数字が苦手で……」と、やんわり断る人がたくさんいます。
なぜ、こんな反応になるのでしょうか?
それは、多くの人が「会計=経理の仕事」「会計=むずかしい簿記」と思い込んでいるからです。たしかに、一般的な会計のセミナーでは、仕訳(しわけ)の方法や、帳簿(ちょうぼ)の書き方、税務署に出す書類の書き方などを教えることが多くあります。これらはとても大切な知識で、会社の数字を正しく記録するためには欠かせません。
でも——それはどちらかというと、「経理の人がやる仕事」です。
会社を経営していくうえで大切なのは、「どこに力を入れるか」「どこを改善するか」「どうすればもっと儲かるか」といった「経営の判断」です。そして、この判断にこそ、本当の意味で「数字」が必要になるのです。
たとえば、こんなことを数字で考えたことはありますか?
- どの商品が一番もうかっているのか?
- 新しい事業を行うとしたら、いくらまで投資できるのか?
- 今の会社の利益の出し方は、このままで大丈夫なのか?
こういった問いにしっかり答えるには、「経理処理」ではなく、”数字を使って考える力”=経営に活かす会計の感覚が必要です。
これは仕訳のルールや、帳簿の付け方とはまったく別の話です。
けれど、「会計=むずかしい専門知識」というイメージが強すぎるせいで、本当に学ぶべき「経営のための会計」から、多くの人が遠ざかってしまっているのです。
この連載では、そうした誤解をなくすために、むずかしい言葉や複雑な計算式をなるべく使わずに、経営に必要な「会計の感覚」をわかりやすくお伝えしていきます。
「数字が苦手」と感じている人ほど、ぜひ読んでほしい内容です。
なぜなら、この連載が伝える“数字の使い方”は、誰にでも身につけられるスキルだからです。しかも、会社を元気にし、未来を変える力を持っています。
未来の意思決定に必要な「科学的どんぶり勘定」とは?
では、「経営者にとって大切な“会計の感覚”」って、どうやって身につければいいのでしょうか?
そのヒントになるのが、本連載で紹介する「科学的どんぶり勘定」という考え方です。
「どんぶり勘定」と聞くと、「ざっくりしていて、適当で、ちゃんと数字を管理していない」というイメージを持つかもしれません。たしかに、昔ながらの商売でよくあった「なんとなくお金を扱うやり方」は、そう呼ばれていました。
でも、この連載でいう“どんぶり勘定”は、まったく違います。
むしろ、「必要な数字だけを使って、シンプルに、スピーディに経営判断をする」ための“整理された考え方”です。
たとえば、ラーメン屋さんを例にして考えてみましょう。
- 一杯のラーメンを売ると、材料費などを引いてどれくらいの利益が出るのか?
- 店の家賃やスタッフのお給料をまかなうには、1日に何杯売ればいいのか?
- 値段を少し上げたら、お客さんの数は減るかもしれないけれど、それでも利益は増えるのか?
こんなふうに、「どこでお金が入ってきて、どこで出ていくのか?」という儲けの流れを、紙とペンだけで図にしたり、ちょっとした計算で”見える化”したりするだけで、経営の見え方がガラリと変わります。
むずかしい計算式や分厚い会計ソフトはいりません。
必要なのは、「数字を使って、考えを整理する」こと。
つまり、これまで感覚や経験でやってきたことに、“筋道(すじみち)”と“仕組み”を与えるのが、「科学的どんぶり勘定」なのです。
このやり方を身につければ、「数字が苦手…」と思っていた人でも、だんだんと「儲けの構造」や「お金の流れ」が頭に浮かぶようになります。
すると、経営のいろんな場面でこう考えられるようになります。
- 「この商品を値下げするのって、本当に意味あるのかな?」
- 「いまの売上って、ちゃんと利益に結びついているのかな?」
- 「この投資をするなら、どれくらいで元が取れるのかな?」
こうした疑問に、自分の感覚+数字の力で答えられるようになるのです。
そして、「自分の判断は間違ってなかった!」と、自信を持てるようになります。
それが、「会計を経営に活かす」第一歩なのです。
この連載で『科学的どんぶり勘定』を理解しよう
まず最初に「決算書(けっさんしょ)だけでは経営のすべてはわからない」という話をしました。
利益が出ていても、お金が足りなくなる「黒字倒産(くろじとうさん)」のように、帳簿(ちょうぼ)の数字と現金の動きがズレてしまうこともある。
そして、経営者が本当に学ぶべき会計とは、むずかしい経理処理のことではなく、「経営判断に使える数字の考え方」であるということもお伝えしてきました。
その上で登場したのが、「科学的どんぶり勘定」という考え方です。
これは、専門用語や難しい計算ではなく、必要最小限の情報とシンプルな図解で、経営を感覚的に“見える化”する方法でした。
これからさらに踏み込んで、「この考え方を、どうやって実際の経営に使うのか?」を具体的に解説していきます。
難しい理論書ではなく、「会社の数字を、すぐに自分の判断に使えるようにする連載」として、図や表を使って、ていねいに進めていきます。
学んでいくテーマは、大きく3つあります。
① 会社のお金の構造を見える化する
まずは、売上(うりあげ)・変動費・固定費・利益の関係を図でわかりやすく整理します。
たとえば、「売上があと10万円伸びたら、利益はいくら増える?」といったことが感覚的にわかるようになります。
「どこを変えれば、もっと儲かるのか?」という問いに、数字で答えられるようになることが目標です。
② 儲けを生み出す意思決定の方法を学ぶ
次に学ぶのは、「どうすればもっと儲かるか?」を考えるための判断材料です。
たとえば、商品ごとのもうけを比べる「商品別損益」や、売上が増えた分の利益を見極める「限界利益」、会社が赤字にならない売上のラインを知る「損益分岐点」など、すべて“ムダな努力をしないため”の知恵です。
「売れているけど、実は損している商品」や、「がんばっても赤字になる仕組み」に気づけるようになります。
③ 経営を続けるために必要な数字の見方を身につける
最後に、「会社を続けていくために、どんな数字を見ればいいか?」を学びます。
たとえば、資金繰り(しきんぐり)・投資判断・回収期間・キャッシュフローなど、会社の“お金の未来”を見る力です。
これを知っておくことで、ピンチに強く、チャンスに動ける経営ができるようになります。
このように、本連載では「会計の知識」ではなく、「経営に活かす会計の感覚」を重視しています。
ページをめくるたびに、あなたの中に“数字の見え方”が増えていく感覚を、ぜひ体験してください。
そして、最後まで読み終えたときには、「数字っておもしろい!」「経営って、自分でも考えられるんだ!」と感じてもらえることを願っています。