「戦略MGはもう古い」という言葉に感じる違和感――“巨人の肩の上”で私たちが学ぶべきこと

ビジネスの世界では、常に新しい手法や理論が生まれています。それ自体は喜ばしいことですが、新しいものを際立たせるために、あえて古いものを否定する「対立構造のマーケティング」をよく目にするようになりました。

「戦略MG(マネジメントゲーム)はもう古い。これからは〇〇の時代だ」

このような煽り文句は、非常に分かりやすく、人々の目を引きます。しかし、何かを否定することでしか自らの優位性を語れない姿勢に、私は一抹の寂しさと危うさを感じずにはいられません。

今回は、戦略MGという偉大なツールを例に、私たちが「学ぶ」という行為において、いかに先人の知恵と向き合うべきかを考えてみたいと思います。


1. 比較と対立がもたらす「分かりやすさ」の罠

なぜ、多くのマーケティングや言説が「Aは古い、これからはBだ」という形を取りたがるのでしょうか。その最大の利点は、思考のコストを下げられることにあります。

  • 対立させることで、違いを明確にする
  • 「古いもの」を仮想敵にすることで、新しさへの期待感を煽る
  • 複雑な事象を「善悪」や「新旧」という二元論に落とし込む

これは、短期間で注目を集めるための「掛け声」としては非常に優秀です。しかし、この手法には大きな欠点があります。それは、「下げられた側(否定された側)」にある真実や、その奥に流れる思想を完全に見落としてしまうということです。

戦略MGを「古い」と切り捨てる人は、果たしてそのシステムがなぜ半世紀近くも愛され続け、ソフトバンクの孫正義氏をはじめとする多くの経営者に影響を与え続けてきたのか、その歴史と哲学をどれほど深く理解しているのでしょうか。


2. 戦略MGの根底にある「思想」を見つめ直す

戦略MGは、単なる「経営シミュレーションゲーム」ではありません。その根底には、戦略会計STRACなどの管理会計の考え方、そして「自立した経営者を育てる」という強い教育哲学が流れています。

ゲームの中で私たちが経験するのは、単なる数字の計算ではありません。

  • 意思決定の孤独と責任
  • 市場の変化に対する適応力
  • 「固定費」をどう活かし、「次の一手」をどう打つかという戦略的思考

これらは、時代が令和になろうと、DXが進もうと、ビジネスの本質として変わらないものです。ツールがデジタル化されたり、ルールが多少現代風にアレンジされたりすることはあっても、その中心にある「経営の理(ことわり)」は色褪せることがありません。

歴史を軽視し、表面的な新しさだけを追い求める姿勢は、根を張っていない木を植え替えるようなものです。一時は見栄えが良いかもしれませんが、激動の時代という風が吹けば、すぐに倒れてしまうでしょう。


3. 「巨人の肩の上に乗って」――先人の知識への敬意

科学者アイザック・ニュートンは、かつてこう言いました。 「私がより遠くを見ることができたのは、巨人たちの肩に乗っていたからだ」

この言葉こそ、私たちが学びに対して持つべき理想の姿勢ではないでしょうか。

新しいものを生み出すことは、決して過去を否定することではありません。先人たちが心血を注いで築き上げてきた知識の蓄積(=巨人)を深く学び、その肩の上に立たせてもらうことで、初めて私たちは「さらに遠く」を見ることができるのです。

戦略MGという「巨人」は、すでに強固な土台を築いています。その歴史を学び、思想を理解した上で、「今の時代なら、この知恵をどう応用できるだろうか?」と考える。それこそが、知的に誠実な態度だと私は思うのです。


4. 時代や環境に合わせて「変化」させるという責任

もちろん、先人の知識をそのまま守り続けるだけが正解ではありません。「守・破・離」という言葉があるように、基礎を固めた後は、時代や環境に合わせて形を変えていく必要があります。

しかし、「変える」ことと「捨てる」ことは根本的に違います。

  • 捨てる: 価値を理解せず、古いという理由だけで排除する。
  • 変える: 核心にある思想を受け継ぎながら、現代に適合するように進化させる。

戦略MGの学びも同じです。アナログな盤面を囲む良さもあれば、オンラインで遠隔地と繋がる良さもあるでしょう。製造業モデルをベースにしながらも、サービス業やIT業界の文脈に読み替えて活用することも可能です。

大事なのは、「下げて上げる」という安易なマーケティングに惑わされないことです。何かを貶めることで自らを正当化する声に耳を貸すのではなく、その手法が何を土台にしているのか、どのような歴史の上に成り立っているのかを、自分自身の目で確かめる力が必要です。


結びに:本質を見抜く学び手であるために

「戦略MGは古い」という言葉に出会ったら、こう考えてみてください。 「では、その『古さ』の中に、今でも通用する本質は何だろうか?」と。

私たちは、常に変化する世界に生きています。新しい技術や流行は、波のように押し寄せては消えていきます。その中で、流されずに確かな経営判断を下すためには、時代を超えて受け継がれる「普遍的な知恵」が必要です。

先人の歴史や思想を軽んじることなく、深く学び、その上で自分たちの時代を切り拓いていく。そんな「巨人の肩の上」を歩むような、誠実で力強い歩みを続けていきたいものです。

戦略MGという偉大な教育システムが積み上げてきた時間を、私たちはもっとリスペクトし、そこから多くのことを盗み、未来へと繋いでいく責任がある。私はそう信じています。

時代と呼応する「戦略MG 継続経営版」の開催について

「巨人たちの肩に乗る」という姿勢を体現するため、私たちは従来の戦略MGが持つ教育哲学を深く尊重しつつ、現代の激しいビジネス環境を反映させた「戦略MG 継続経営版」を企画・実施しています。

従来のMGが「特定の期間での勝利」に焦点を当てるものだとしたら、私たちのプログラムは「変化し続ける環境の中で、いかに会社を存続させ、価値を積み上げ続けるか」という継続経営の本質を追求します。

不透明な経済情勢、デジタル化による市場の変化、そしてサステナビリティが求められる現代。先人たちが築き上げた経営理論という強固な土台の上に、現代特有の変数をどう組み込み、適応させていくか。その具体的な知恵を、シミュレーションを通じて体感いただけます。

過去を否定するのではなく、その歴史を力に変えて未来を拓く。本質的かつ実践的な経営感覚を磨きたい方は、ぜひ私たちのセミナーへお越しください。共に学び、成長できる時間を楽しみにしています。